「iDeCoって60歳以降に受け取れるんでしょ?退職金と合わせてドーンともらえばいいじゃん!」
……と思っていたあなた、ちょっと待ってください。2025年1月の法改正で、iDeCoと退職金の受け取り方には「10年ルール」という新ルールが登場しました。旧来の「5年ルール」のまま計画を立てていると、税負担が数十万円単位で変わる可能性があります。
この記事でわかることは3つです。
- 「5年ルール→10年ルール」改正で何がどう変わったか
- 退職金・iDeCoの受け取り順序で得する・損するケースの違い
- 年収・年齢別シミュレーションで見る「今すぐ見直すべき出口戦略」
制度改正直後で情報が錯綜しているいまこそ、正しい知識で出口戦略を整理しておきましょう。
そもそも「退職所得控除」とiDeCoの関係は?
まず基礎知識から整理します。iDeCoを一時金【一時金:一括で受け取る方法。分割の年金受け取りとは別の選択肢】で受け取ると、「退職所得」として課税されます。
退職所得には「退職所得控除【退職所得控除:長年の勤続に対する特別な控除。勤続年数が長いほど控除額が大きくなる】」という大きな非課税枠があります。これが老後の受け取りにおける最大の節税ポイントです。
| 勤続年数(加入年数) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (年数 − 20年) |
たとえばiDeCoに30年加入していれば、控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円。これだけの金額が非課税になるわけです。会社の退職金も同じ「退職所得控除」の枠を使います。ここが問題の核心です。
改正の核心!「5年ルール」から「10年ルール」へ
iDeCoの一時金と会社の退職金を同じ年に受け取ると、退職所得控除を合算して計算しなければなりません。控除枠が一つしかないイメージです。
そこで重要になるのが「受け取りの間隔」です。一定年数を空けることで、それぞれが独立した退職所得控除を適用できるようになります。この「間隔ルール」が今回改正されました。
| 受け取り順序 | 旧ルール(改正前) | 新ルール(2025年1月〜) |
|---|---|---|
| ① 退職金を先に受け取り → その後iDeCo | 5年以上の間隔でiDeCoを独立控除 | 10年以上の間隔が必要に(厳格化) |
| ② iDeCoを先に受け取り → その後退職金 | 5年以上の間隔で退職金を独立控除 | 引き続き5年以上でOK(変わらず) |
ポイントは「退職金を先に受け取るパターン①だけが厳しくなった」という点です。多くの会社員が定年退職時に退職金を受け取り、その後iDeCoを受け取る順序(パターン①)を想定していたため、影響を受ける人が多いのです。
具体例で理解する!受け取り順序の違いと税負担
【要注意】パターン①:退職金→iDeCoの場合(旧5年→新10年ルール)
60歳で定年退職し退職金を受け取った後、iDeCoも同じ年か5年以内に一時金で受け取るケースです。改正前はこれで問題なかったのですが、改正後は10年待たないとiDeCoの退職所得控除が全額使えません。
具体的には、退職金受け取り後10年以内にiDeCoを一時金受け取りすると、iDeCoの退職所得控除から退職金で使った控除額が差し引かれます。結果として、iDeCoの受け取りに税金がかかることになります。
【有利】パターン②:iDeCo→退職金の場合(引き続き5年ルール)
iDeCoを先に一時金受け取りし、5年以上空けてから退職金を受け取るケースです。こちらは改正後も「5年以上の間隔」でそれぞれ独立した退職所得控除が適用できます。
たとえば、55歳でiDeCoを一時金受け取り(加入30年なら控除1,500万円)→ 60歳で定年退職金受け取り(勤続35年なら控除1,850万円)という流れが成立します。合計で3,000万円超の非課税枠を活用できるイメージです。
ただし55歳でiDeCoを受け取るには「iDeCoの受給開始可能年齢(加入期間10年以上なら60歳から)」の制限もあります。自分がいつから受け取り可能か、まず確認しましょう。
受け取り可能年齢も再確認!「10年ルール」ともう一つの10年
実はiDeCoには退職所得控除の「10年ルール」以外に、受給開始年齢に関するルールも存在します(こちらは以前からある制度ルールです)。
| iDeCo通算加入期間 | 受給開始可能な最低年齢 |
|---|---|
| 10年以上 | 60歳から |
| 8年以上〜10年未満 | 61歳から |
| 6年以上〜8年未満 | 62歳から |
| 4年以上〜6年未満 | 63歳から |
| 2年以上〜4年未満 | 64歳から |
| 1ヶ月以上〜2年未満 | 65歳から |
受給開始は最長75歳まで繰り下げ可能です。「急いで受け取らず、70歳まで繰り下げて公的年金と合わせる」という戦略も選択肢のひとつです。
シミュレーション:改正で変わる税負担の差
パターンA:年収400万・30歳加入 / 60歳定年退職(iDeCo加入30年)
| 項目 | 旧プラン(退職金→5年後iDeCo) | 新プラン(iDeCo先→5年後退職金) |
|---|---|---|
| 退職金受け取り | 60歳・勤続30年(控除1,500万円) | iDeCo先受け取り後、65歳以降 |
| iDeCo一時金 | 65歳(退職金から5年後)※改正後は控除不足 | 60歳(先に受け取り)・控除1,500万円全額適用 |
| iDeCo残高想定 | 約1,200万円 | 約1,200万円 |
| iDeCoへの税負担目安 | 控除不足で数十万円の課税が発生する可能性 | 非課税(控除1,500万円内に収まる場合) |
| 差額 | 受け取り順序を変えるだけで数十万円の差! | |
※上記は概算シミュレーションです。実際の税負担は残高・退職金額・控除の積み上げ方によって異なります。
パターンB:年収600万・35歳加入 / 65歳まで繰り下げ戦略(iDeCo加入30年)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| iDeCo加入期間 | 35歳〜65歳の30年間 |
| 退職所得控除(iDeCo) | 800万円+70万円×10年=1,500万円 |
| iDeCo残高想定 | 約1,800万円(月2万円・利回り3%想定) |
| iDeCo先受け取り(65歳) | 残高1,800万円−控除1,500万円=課税対象300万円 |
| 実際の税負担目安 | 退職所得は2分の1課税のため、実質課税所得150万円 → 税額約20〜25万円 |
| 退職金(70歳に繰り下げ・65歳から5年後) | 勤続35年控除1,850万円。退職金がこれ以内なら非課税 |
残高が控除額を超えた場合でも、退職所得は「2分の1課税」のルール【2分の1課税:退職所得は課税対象額を半分にしてから税率をかける仕組み。給与収入より有利な課税】があるため、実際の税負担は思ったより小さいことが多いです。
知っておくと安心!注意点5つ
- 「退職金を先に受け取るなら10年間隔」が新常識:旧ルールの「5年」は古い情報です。2025年1月以降に退職金を受け取った場合、iDeCoを一時金で受け取るまでに10年の間隔が必要になりました。定年退職のタイミングで計画を立てている方は、今すぐ確認が必要です。
- 「iDeCo先受け取り」は引き続き5年でOK:パターン②の「iDeCoを先に受け取り→5年後に退職金」は改正前と変わりません。この順序が税制上は有利になりやすいため、定年前後の戦略を見直す価値があります。
- 年金受け取りを選択すると「公的年金等控除」が適用される:一時金でなく、年金(分割)受け取りを選ぶと退職所得控除でなく公的年金等控除【公的年金等控除:年金受け取りに使える控除。65歳以上は最低110万円の控除がある】が適用されます。退職金との課税調整が不要になりますが、受け取り期間中ずっと課税対象になるデメリットもあります。どちらが有利かは個人の状況によります。
- 「退職所得控除の通算」は複雑なため専門家相談も有効:同一の勤務先からの退職金とiDeCoの組み合わせ、複数回の退職がある場合など、控除の計算は複雑になります。「自分のケースだと具体的にいくら得なのか」が気になる方は、税理士やFP(ファイナンシャルプランナー)に相談することも検討してみてください。
- 2025年12月から掛金上限も変わっている:2024年12月より、企業型DC加入者のiDeCo掛金上限が変更されています。出口戦略と同時に、積み立て中の掛金設定も見直しておくと万全です。最新の上限は加入する金融機関または厚生労働省の公式情報で確認しましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 今から退職金→iDeCoの順で受け取ろうと思っていました。どうすればいいですか?
選択肢は主に2つです。①退職金受け取り後10年以上待ってからiDeCoを一時金受け取り(75歳まで繰り下げ可能)、または②iDeCoを一時金でなく年金(分割)受け取りに切り替えることで退職所得控除の重複問題を回避する方法です。どちらが有利かは退職金額・iDeCo残高・その他の収入状況によって異なります。まずはご自身の残高と退職金見込み額を確認することから始めましょう。
Q2. iDeCoを「年金受け取り」にすれば10年ルールは関係ない?
そのとおりです。iDeCoを年金(分割)受け取りにした場合は「退職所得」ではなく「雑所得(公的年金等)」として課税されるため、退職所得控除との重複問題は発生しません。ただし年金収入として毎年課税対象になるため、受け取り総額と税負担のバランスを考える必要があります。一時金vs年金どちらが得かはシミュレーションが必要です。
Q3. 退職金のない会社(中小企業・スタートアップ)に勤めている場合はどうですか?
退職金がない場合、そもそも「退職所得控除の重複」が起きないため、10年ルールの影響を受けません。iDeCoの退職所得控除をフル活用できる有利な立場です。加入年数を長くして控除枠を最大化する戦略が特に有効です。定年まで継続加入することで、控除額が最大化されます。
Q4. iDeCoを一時金と年金の「併用受け取り」はできますか?
金融機関によっては一部を一時金・残りを年金で受け取る「併用」が可能な場合があります。たとえば「控除枠内に収まる金額だけ一時金で受け取り、残りは年金でじっくり受け取る」という戦略が取れます。ただし対応している金融機関が限られるため、加入先に確認してみましょう。
Q5. iDeCoの受け取りを75歳まで繰り下げるメリット・デメリットは?
メリットは、退職金受け取り後に10年の間隔を確保しやすいこと(60歳退職→70歳iDeCo受け取りなど)、また繰り下げ中も運用が続くため資産が増える可能性がある点です。デメリットは、健康上の理由などで長く生きられなかった場合に受け取り期間が短くなるリスクがある点です。自分の健康状態・家族歴・他の収入源なども加味して判断しましょう。
まとめ:今すぐ出口戦略を「10年ルール仕様」に更新しよう
- 2025年1月改正で「退職金先受け取り→iDeCo」のパターンは5年ルールから10年ルールに厳格化。旧プランのまま放置すると数十万円の税負担差が生まれる可能性がある
- 税制上有利なのは「iDeCoを先に一時金受け取り→5年後に退職金」の順序。こちらは引き続き5年ルールのまま
- 退職金がない会社員・自営業者はiDeCoの控除枠をフル活用できる有利な立場。加入年数を長くするほど控除額が増えるので、できるだけ長く積み立てるのがお得
制度改正のたびに「知っている人だけ得をする」状況が生まれます。今回の10年ルール改正もその一つ。出口戦略を早めに整理しておくことで、数十万円単位の税負担を減らせる可能性があります。老後に向けて積み上げてきた資産を、受け取り方でも最大限活かしていきましょう。
この記事は個人の情報共有であり投資助言ではありません。制度詳細は金融庁・国税庁・厚生労働省の公式サイトをご確認ください。

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